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東京高等裁判所 昭和57年(く)217号 決定

被告人 塩田裕子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、前記弁護人両名名義の抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用するが、要するに原裁判所(単独体裁判官)が前記日時(第二回公判期日)に本案事件の開廷前にした傍聴人の所持品について、刃物、カメラ等の持込み禁止、手荷物及びかさ類の持込み禁止等の規制を行う旨の措置が、公判裁判所として行つた決定にあたると解し、右決定は裁判所傍聴規則一条所定の、「法廷の秩序を維持するため必要があると認めるとき」の、必要性の判断を恣意的になした違法があるから、その取消を求めるというのである。

そこで検討すると、原裁判所が前記のように行つた傍聴人の所持品についての規制措置は、裁判所法七一条一、二項、裁判所傍聴規則一条二号に基く「裁判長または開廷をした一人の裁判官」による法廷警察権の行使にほかならないところ、かような法廷警察権に基く措置に対しては、刑訴法三〇九条二項の裁判長の処分に対する異議が不服申立方法として認められており、これと別途に抗告による不服申立を認めるべき必要性は乏しく、また「裁判長または開廷をした一人の裁判官」の権限に基く点や、規制措置が事実行為的である点でも「裁判所」としてした「決定」にあたると解することもできないから、所論にかかわらず原裁判所の前記措置をもつて、抗告の対象となる「裁判所の決定」があつたとすることはできない。

そうだとすると、本件抗告は抗告の対象たる決定が存在しない点で、不適法であるといわなければならない。

なお、本件記録添付の資料によると、本案事件の第一回公判期日において、原裁判所が本件と同様の傍聴人の所持品についての規制措置をとつたことにつき、公判廷で弁護人から不当な措置であるから取消を求めるとして異議の申立がなされたが、原裁判所は直ちに右異議の申立を棄却する旨決定し、告知したことが認められるので、本件抗告の申立は右異議申立棄却決定に対する不服申立の趣旨であると解する余地がないではない。

しかし、右の趣旨に解するとしても、刑訴法四二〇条一項によれば、裁判所の管轄または訴訟手続に関し判決前にした決定に対しては、特に即時抗告を認める規定がある場合のほかは抗告をすることはできないとされており、右異議申立棄却決定が「訴訟手続に関し判決前にした決定」にあたることは明らかであり、これに対し即時抗告を認める特別の規定のないことも明らかであるから、右異議申立棄却決定に対する抗告も法律上許されないものとして、不適法であるといわなければならない。

よつて、刑訴法四二六条一項により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 海老原震一 和田保 新田誠志)

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